嘘つきは恋人のはじまり。
九条さんの知らない一面を知り、トクンと心臓がざわめいた。握りしめられた手が先ほどより熱く感じるのは彼の熱が上がったせいなのか、それとも自分の体温なのか分からない。
「も、もう…っ、」
寝て、と言いかけたのにおでこに感じる熱と柔らかい感触。目だけをあげればスッキリとした顎が見えた。
「ちょ、」
おでこにキスって。
「いいだろ?キスのひとつやふたつ」
「そういう問題じゃ……っ」
今度は瞼。そして頬、耳、髪、とキスが続く。嫌なのに嫌じゃない。拒否しないといけないのにできない。
掴まれた手を振り解くことはできる、と思う。それなのになぜか振り解けなくて。
「……嫌なら逃げればいい」
おでこがこつん、とぶつかる。まっすぐ向けられた眼差しはどこか熱を孕んでいて、逃げたいのに逃げられなくて。逃してくれそうにもなくて。
「…あ」
九条さんは少し身体を起こすとわたしの顎を掬った。もう片方の腕が後頭部を支える。
静かに合わさる唇とは対照的に心臓が煩い。鼓動が九条さんにも聞こえているんじゃないかと思うぐらい、静寂な部屋と真逆に身体は熱く騒がしかった。
「…ん、」
ゆっくりと何度も何度もキスが重なる。嫌だ、とつき飛ばせばいいのに出来なくて、思いっきり顔を引っ叩いてやりたいのにできなくて。
息継ぎに少し開けた唇を食むように啄まれ、舐められ、くすぐられる。様子をうかがうように遠慮がちに入ってきた舌に驚いたけど、目を細めて射抜くような見つめられて抵抗もできなくて。
「…ふ、」
身体から力が抜ける。思考が止まる。脳が麻痺したのか、もう何も考えられなかった。