嘘つきは恋人のはじまり。
ぼんやりとした視界が何度か瞬きを繰り返せばはっきりと見えるようになった。だけど、その姿を見て固まった。
……え?
なに、これ?と訊ねなくてもわかる。
九条さんの腕に抱えられていたのは真っ赤な薔薇の花束だ。それに目を奪われていると花束は静かにわたしの腕の中にやってきた。
手渡されるまま花束を受け取ればふわりと漂う薔薇の香りが非現実的でーーーーーーー。
『宮内玲さん』
呼ばれて顔を上げれば端正な顔がわたしを見下ろしていた。窓に反射する東京タワーの光と室内の橙色の灯りが陰影をつけて彼をドラマティックに照らしだす。光と影のコントラストがこの場を盛り立て、まるでロマンス映画のワンシーンのような煌びやかな一瞬に息を呑んだ。
『俺と結婚してください』
九条さんは片膝を付くと俳優顔負けの綺麗な笑みを少し懐っこく崩し嬉しそうにふわりと笑った。
見つめられる熱い眼差しに、プロポーズの言葉に、頭が真っ白になる。