嘘つきは恋人のはじまり。
抱きしめられている、と気づいた時に漸く今の状況を理解した。
わたし、プロポーズされた。
しかも彼氏でもない人に。
会ったばかりの人に………!!!
少女漫画の世界ならなんか運命を感じて、とか。イケメンで優しくて、とか。そんな理由でもOKしちゃいそうだけどこれは現実だ。
『…は、離して…っ!!』
『いやだ』
はぁあああぁああぁ?!
その声は僅かに楽しそうで。人が離れようとしているのに九条さんは全く気にする素振りもない。
『変態っ!!セクハラっ!!触らないでくださいっ』
『俺と結婚する?』
『ば、馬鹿ですかっ?!』
『真面目な話』
全く話が噛み合ってない。
言葉だけでもイライラする。それなのに抱きしめられていることに嫌悪感を抱かない自分に気付いてもっとイライラした。
いくら寂しいからって、こんなポッと出の男に抱きしめられてトキめいてる場合じゃないでしょ、自分!!
『玲』
不意に九条さんは耳元でわたしを呼んだ。親しげに、まるで本当に親密さを表すような呼び方。どこにも躊躇いがなく、昔からの知り合いだというように彼はわたしに呼びかけた。
『玲』
ぶわぁ、と身体が熱くなる。
この男の声が鼓膜を震わせて脳髄を駆け巡る。