嘘つきは恋人のはじまり。
広い肩、意外と厚い胸、しっかりとした腕がわたしを包み込んだ。鼻腔を擽る匂いは彼の匂いだろう。店の匂いと混じった匂いはどこか懐かしい匂いがした。
その状態が続く。しばらく互いが無言になり、九条さんはポンポンと頭を撫でるとそっとわたしから離れた。
『いきなり悪かった。けど、俺は本気だ』
むしろ冗談にしてほしい。
怒らないから嘘だと言ってほしい。
それでもこの男が嘘を言っているようには見えなくてわたしきちんとお断りすることにした。
『…ごめんなさい。わたし恋人が』
『けど、旦那はいないだろ?』
恋人がいるんです、と言い切らないうちに言葉を被せてきた。しかもとても理解し難い内容である。驚きのあまり口が塞がらない。
『恋人はいても旦那はいない。つまり法律上は誰のものでもない』
『………』
『俺は玲を嫁にしたい。玲に旦那はいない。なら問題ないはずだが』
問題だらけなんですけど。