嘘つきは恋人のはじまり。



「そういえば、元気にしてるの?」

「元気よ。今も仕事中」


恋人のロバートはオーストラリア人。そして今もオーストラリアに住んでいる。


というのも、彼と出逢ったのはオーストラリアで、つい最近までわたしもオーストラリアにいたのだ。


「よくやるわね、遠恋なんて」


「でも1年ほどだし」


彼はトラットリアのような小さな食堂兼バーを営んでいる。彼自身料理をするのが好きで、自ら厨房に立つオーナーシェフだ。


初めて逢った時はそれはもう驚いた。


白い肌に黄金色の髪、透き通ったグレーの瞳がとても綺麗で、それはもう絵本の中の王子様かと思ってしまうほど。
仕事を辞めて、人生をリセットするかのようになんとなく向かった地で出逢った彼は、見ず知らずのわたしを元気付けようとあれこれと世話を焼いてくれた。


『どうしてそんなに優しくしてくれるの?』


毎日同じ海でぼぅ、としていたわたしのところに彼も毎日現れた。お菓子を持ってきてくれたり、話し相手になってくれた。拙い英語を一生懸命聞いてくれて、色々あって落ち込んでいたわたしに寄り添ってくれた。


だけど、初めは変な人か、何か企んでいるのかと疑ったこともある。


だけど


『放っておけなかったんだ』


照れ臭そうに目を逸らした彼の表情や言葉に嘘は無いと思った。


彼との時間を重ねるほど気持ちも積み重なって、お世辞にも器用とはいえない彼だけど、いつの間にかそんな彼に惹かれていた。


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