嘘つきは恋人のはじまり。



九条さんから傲慢さや奢りは見られなかった。女で、しかも二十代でコンサルタントだと大抵は見下されたり鼻で笑われたりする。


自分より倍以上年齢のオジサン相手なら特に。こんな子娘に何がわかる、と言いたげな視線を分かりやすく寄越してくる。男と女ってだけでも軽視されることが多い中、九条さんは初めから全然そんなことなかった。


必要な情報は隠すことなく開示してくれた。詳しい情報は後日という話ではあったが、ざっくりとどういう状況で何を望んでいるかはっきりとしていた。

おまけにわたしの幅を広げようと提案までしてくれた。そんな提案されたのは初めてだった。ただ人の話を聞いただけで“宮内玲”を買ってくれて、おまけに“俺たちを踏み台にすればいい”とまで言ってくれた。だから余計舞い上がったのかもしれない。


はぁ、と溜息をつくと未玖から携帯を渡された。


「メール来てたよ」


画面を見ると確かに通知のマーク。開けばまるでわたしの気持ちを見透かしているように九条さんからメールが届いた。


『今夜はありがとう。とても楽しい時間だった。勘違いしないでほしいが、仕事とプライベートは別件だ。だが、いきなり不躾だったことは少し申し訳なかったと思う。悪かった』


そのメールを見て少し困った。
九条さんはあまり器用な人ではないことが文面からも見て取れたから。


「何笑ってんの?」

「え?笑ってる?」


未玖に指摘されて思わず頬を触る。


「なんか“仕方ないなー”って顔してた。誰?九条さん?」


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