嘘つきは恋人のはじまり。



声をかけられてハッとした。いつの間にか時刻は11:30を回っていた。店内はざわつきランチに来た人で溢れかえっている。振り返って店内を確認するとテーブル席はほとんど埋まっており、ちらほら諦めて店を出て行く人もいた。


「す、すみませんっ、退けます」


隣の席に置いた鞄とコートを慌てて退けてこれをどうしようか考える。コートは背中で潰すとして、鞄は。


「ここにフックありますよ」


わぁ、なんて親切な人!


外向きのカウンター席の座椅子の面積はそれほど大きくない。バーカウンターにあるような小さなもので、コートと落ちないか内心ヒヤヒヤしていたところだ。だが、ここから見える景色がいいからテーブル席よりよくこっちに座る。だけど次回からテーブルにしようか、と検討する。


「あ、ありが……」


ここでようやく顔を上げた。お礼を言いながら、言いかけてびっくりした。それはもう声が出ないほどに。


なぜなら声をかけてきた人が九条さんだったからだ。


「どういたしまして」


九条さんはにっこりと笑った。どこかよそ行きのような素振りが若干混じったウソモンの笑顔。昨日のことなんてまるで何もなかったようだ。


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