嘘つきは恋人のはじまり。


昨日の答え、と言われてパッと頭に浮かんだのはわたしを見上げる九条さんの熱い眼差しとプロポーズの言葉だった。


思わず視線を逸らすと九条さんに掴まれた手がぎゅっと強くなる。


ーーーWill you marry me?


だぁあああああ!!!


それを頭の片隅に追いやろうと必死になっているとあろうことか目の前の男がクツクツと肩を揺らして笑っていはじめた。

「あーー。宮内さんってかわいいね」


目尻に滲んだ涙を拭いながら本当に可笑しそうに笑う。かわいいね、なんて言ったあとにまた笑いはじめたからこれは馬鹿にされているとしか思えない。


「お、お断りしたはずですが?」


これ以上やってられない。
わたしは捕まった手を勢いよく振り解くと鞄に手を伸ばす。だが、彼の次の言葉で穴に隠れたいほど恥ずかしくて堪らなくなった。


「ん?なんのこと?うちの香月と木下に会ってほしいってメールしたよね?……もしかして別のこと考えてた?」


ハッとして九条さんの方を振り向けば本当に本当に腹立つぐらい、ニヤニヤとしていた。いや、ニヤニヤどころではない。ニマニマだ。悪戯好きの男の子が弱いもの虐めをするときに見せるやつだ。



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