嘘つきは恋人のはじまり。


ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい。


わたしは自分を責めた。
例え知らない人とは言えど彼の生涯で最後に会った自分がもう少しなんとかできていれば違った。


コンビニに行かずに救急車を呼べばよかった。

口論をしている間に救急車を呼べば……


どれだけ“たられば”を言ってもきりはない。
どれだけ過去を憂いても戻らない。


死んでしまったんだ、彼は。


どこかの会社の社長だと言っていた。
社員はどうするのだろうか。
彼について行こうとした彼らはどうなるのだろうか。


わたしはその状況を考えて青ざめた。


助かる命だった。
だけど助からなかった。


ただ巡り合わせただけ、で、運が悪かっただけ、といえばそうかもしれない。


わたしはただ、救急車を呼んで病院に連れて行っただけだ。罪に問われることもなければ気に病むことではない。


だけど、数時間前まで生きていた人がこんなにも早く亡くなるなんて信じられなかった。


救急車の中で励ますように繋いだ手は熱くて、ちゃんと生きていた。


それなのにもう、彼はこの世にいないんだ。


そう思うとわたしは絶望に打ちひしがれて卒業式もそこそこで切り上げて家に帰るとベッドに潜り込んで泣いた。



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