嘘つきは恋人のはじまり。



「わたしだけはあなたのこと覚えているから」


あの日から毎年、わたしは彼の命日にここに来て懺悔している。塞ぎかけた傷を穿り返し、かさぶたになってもそれを剥がして心に刻む。


彼が生きられなかった今をわたしは生きている。


彼が生きたかった今をわたしは生きて、そして覚えておくために。


「でもごめんなさい。来年からここには来られないの。でも、……ちゃんと覚えているから」


ロバートと生きる選択する。
つまり、もう日本に滅多に帰ってこられない。


帰ったとしてもそれは実家であり、東京には来ないだろう。


だから今夜はたくさん、この先何十年分も懺悔する。手に持つコーヒー缶が冷たくなっても、頬を撫でる風が涙を乾かしても、今夜だけは彼に謝り続ける。


わたしひとりしか居ないベンチの片隅に置いたコーヒー缶は彼のものだ。あの日、ベンチの足元にこれと同じコーヒー缶が置かれていた。


彼が好きだったんだろう、コーヒーを毎年2つ買ってわたしはここに来て、亡くなった彼を偲ぶ。


それを繰り返しているうちにあの日から5年経ってしまった。


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