嘘つきは恋人のはじまり。



九条さんの言葉にヒュッと息を飲んだ。まさか、九条さんがあの人の知り合いなんだろうか。


思わず九条さんに視線を向けると彼はどこか懐かしそうに笑い話を続けた。


「倒れる数日前から体調が悪いことには気がついていた。だけど、会社を立ち上げた年の最初の決算期だ。その月の売上をなんとか達成させて、たとえ僅かでも付いてきてくれた社員に賞与として還元したかった」


ドクドクと心臓が波打つ。
あの日の彼のことを話していることはすぐに分かった。


怖かった。
わたしのせいで助からなかった、と言われるんじゃないか、とかこの先どう転んでいくのか怖くてギュッと目を瞑った。


「身体は資本だ。だけどまだ若かったし、多少無理しても大丈夫だとタカを括っていた。なんとかなるってどこかで思っていたんだ。だけど、自分より年下の女の子に怒鳴られて気づいた。でもそれは、救急車に乗せられた後のこと。今度その子に会ったらちゃんと謝罪と感謝を伝えたい、と思っていた」


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