嘘つきは恋人のはじまり。



「あの日助けてくれたのは、宮内玲だろ?」


九条さんの目がどこか困ったように細まってわたしに確認している。また溢れてくる涙を拭き取りながら眉を下げた。


ーーー生きてた


「やっと見つけた」


九条さんに再び抱きしめられたわたしは、ダムが崩壊したように泣いた。


生きていたことに安堵して、こうして再会できるとは思ってもなくて。


「ありがとう。あの日の礼をずっと言いたかった」


九条さんの言葉にまた涙が止まらない。崩壊したダムに追い討ちをかけるその言葉はわたしの心の奥の傷を全て消し去るように撫でていく。


「それからごめん。なんでこうなったのか分からないかけど、俺は生きてる。玲が助けてくれたから。けど、背負わなくていいもの背負わせてしまったな」


もっと早く知りたかった、と言ったら嘘になる。


だけど、今日知れて良かったのだ。
今日が最後のチャンスだったから。


だから


「…生きててくれて、ありがとうございます」


ありたったけの感謝を九条さんに伝えた。


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