嘘つきは恋人のはじまり。



 ひととおり泣いて気が済んだらお腹が減った。九条さんに「飯行くか」と言われたが、こんな顔で行けるわけもない。だから当然お断りしたけれど「裏口から入れるところだし誰にも会わない」と言われ、空腹に勝てず誘われるまま車に乗った。


だが、寒空の下にいたわたしは当然身体中が冷えている。そこに暖房が入っていなくとも閉じられた空間は温かく、そんな車内に揺られ、暖房が効き始めていつの間にか寝てしまった。


今日までひとり隠してきた傷が塞がれたことに安堵して、泣いて疲れて空腹でどうしようもなかったのだ。


そして気がついたら知らない天井を見上げていた。ここはどこだろう、と辺りを見渡せばモデルルームのような室内に理解が追いつかなかった。


……え、ここって。
九条さんの家?


身体には毛布がかけられていたうえにエアコンが効いている。腫れぼったい目をなんとか見開いて九条さんの姿を探す。


「九条さーん」


ぽつーーん、という擬音語が正しいのだろうか。それとも、しーーん、という方が正しいのだろうか。


困り果てていると、ガチャガチャ、キーバタン。と物音が聞こえて足音が近づいてきた。


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