嘘つきは恋人のはじまり。
「玲、酒は?」
九条さんは冷蔵庫からビールを取り出しながら振り返った。「だけど、まずシャンパンにするか」と言いながら見たこともないボトルを持ってくる。
「しゃ、しゃんぱ…」
「玲はまず、手洗っておいで。あ、そうだ。ちょっと待って」
確かに外から帰ってきたままだ、と思って手を見つめる。九条さんは何を思ったのか、新品のメイク落としを持ってきた。最近発売されたそれはよく落ちるけど突っ張らないと話題のオイルだ。
渡されて戸惑った。
メイク落としなんて普通男性の家に無い。
おまけに、躊躇うことなく九条さんはわたしを家に運んだ。そりゃ、この年で全く恋愛はしていない、というわけではないと思うけど、なぜか渡されたメイク落としを受け取ることに躊躇った。
「使わない?」
「え、…あ、はい」
「自分の持ってる?」
そう言われてようやく思考が追いついた。
わたし、泣いた。
しかも思い切り泣いた。
それを思い出して顔がぶわぁ、と熱くなる。
「お、お見苦しくてすみません」
引っ込まれそうになったオイルに思わず手を伸ばすと九条さんはクスクスと笑った。
「どこが?普通に可愛いから」