嘘つきは恋人のはじまり。
ぼふん!と爆発したような音がしたのは気のせいにして逃げるようにリビングを出た。
「リビング出て右。つきあたり奥」
ドアを閉めたのにすぐに開いて九条さんが説明してくれる。おまけに「あ、タオルだよな」と呟きながら結局案内までしてくれた。
「新品じゃないけど洗ってはいるから」
「すみません」
わたしは平謝りでタオルを受け取って鏡を見て小さく悲鳴を上げた。
「ひぃっ」
アイライナーは落ち、頬に黒い涙の跡がある。ウォータープルーフのマスカラなのに、目の周りは真っ黒で、硬く縮れた繊維がいろんなところにこびり付いていた。
こんな悍ましい顔なのに九条さんは「かわいい」と言った。リップサービスだと分かっていても、女性たちがこぞって九条さんに惚れる理由が分かった気がする。
わたしはメイク落としに手を伸ばし、これが新品だと気付いた。使いかけじゃない、ということはこれが誰かのために購入されたことになる。
いったい誰のため……
そこまで考えて野暮だと思い直した。
気にならない、と言えば嘘になるがこんなことわたしに関係ない。