嘘つきは恋人のはじまり。



『宮内玲さん、ですか?』

ちょうど一週間前のことだ。ビルのエントランスを歩いていると背後からフルネームで名前を呼ばれた。


知らない声に思わず振り向くと知らない男が立っていて、こちらに歩み寄ってきた。


『突然声をかけて申し訳ない』


謝罪しながら名刺を差し出す男を不審に思った。そもそも知らない人にいきなり名前を呼ばれる経験なんてないし、面識のない人間に呼ばれれば誰だって警戒するだろう。


怪しい者ではない、と言いたげな顔はわたしの目を見つめながら苦く笑った。きっと酷く冷たい目を向けていたんだと思う。まるで自分は無罪だと言いたげに両手をホールドアップした。


均衡の取れた形の良い目、意志の強そうな眉、スッと鼻筋が通った端正な顔立ちには緩いウェーブの黒髪がよく似合っていた。


身長は高く、163センチのわたしが7センチのヒールを履いても見上げるぐらいだからきっと180センチはあるんだろう。モデル並みのスタイルにジャケットにデニムというシンプルな服装がよく映えていた。


『AD-Free+(アドフリープラス)の九条です』


あどふりーぷらす、ね。

聞いたことないわ。
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