嘘つきは恋人のはじまり。



九条さんの説明にようやく合点した。メイク落としも同じ会社だ。しかも口コミの良い商品ばかり。


「……いいんですか?」


「うん」


腫れぼったい瞼にファンデーションを塗ってもアイライナーを引いても今日はもうどうにもならないだろう。


ここは九条さんに甘えてこのままで居させてもらおう。


わたしは九条さんに勧められるままポーチを鞄に戻すと化粧水、美容液、乳液、クリームの全てを開けさせてもらった。


それを丁寧に塗っているとテーブルの上はいつの間にか綺麗に並べられていて、シャンパングラスに入ったシュワシュワが私たちを呼んでいる。


「乾杯するか」

「そうですね」

「何に?」

「九条さんが生きていたことに」

「玲と再び出会えたことに」


カツーーン


グラスを傾けて小さくぶつけた。透き通る音を聞きながらグラスを口に運ぶ。


「………わ、美味しい」


口の中でシュワ、とはじけて蕩ける炭酸。鼻に抜けるアルコールが空腹に染み渡る。


「箸気にする人?」

「しないです。九条さんは?」

「全く」


つまりそれは好き勝手に食べよう、と言うことで。

「あぁ、美味しいぃぃぃ」


「これは辛子つけて食ってみ」


「んーー。辛子がちょうどいいですね」


「だろ?」


何を食べても美味しくて、何を話しても楽しい。これはもう全てお酒のせいにして私たちは飲んで食べて喋って笑った。


初めて食事をしたレストランよりも気兼ねなく当時のことを蒸し返し、それを酒の肴にした。





< 61 / 145 >

この作品をシェア

pagetop