嘘つきは恋人のはじまり。
心臓が一気にスピードを上げて全力疾走を始めた。辺りはまだ薄暗く真夜中だと思われる。
あぁ、もう、なにしてんのよ、わたし!
心臓に悪いいいいいいいいーーーー
わたしは自分の失態に落ち込みつつ、目の前で呑気に目を閉じて眠る九条さんを見て殴ってやりたい衝動に駆られた。
いくら酔っ払って寝たとしても同じベッドで寝ないでしょ、普通は。
………いや。脱がされないだけまし、だと思わなきゃ。
そうだ。
無理矢理犯されなくてよかった。
そう思うことにして抱え込まれた腕をそっと、彼を起こさないように気つけながら静かに解いた。
そしてやっとこさ身体を起こす。
……あーー、痛い。
頭がぐわんぐわんする。
きっと飲みすぎたせいだ。
いつもならこんな失態しない。だけど、昨日は泣きすぎて究極の空腹へシャンパンからのビールにワイン。勧められるまま次から次へと開けて飲んでしまった。
だって、あの白ワイン。
美味しかったのよ。
それを思いだしているといっきに喉が乾いて何か飲みたい衝動に駆られた。
だが、冷蔵庫を勝手に開けるのもどうかと思う。ま、水道水でもいいやと、とりあえずその場を離れようとした。
「……っ!」
それなのに、あろうことかいきなり腕がもぞっと動いた。それを避けて眺めていると、九条さんの手が何かを探すように這ってくる。パシ、パシ、と布団を叩くとにょーんと腕が伸びてきた。暗闇で動く腕はさながら蛇のよう。思わず小さな声が飛び出た。
「ひっ!」
身体を捩って腕から逃げる。音を立てないよう座り込んだまま後ずさった。だがここはベッドの上。いくら広いと言えど限度がある。