嘘つきは恋人のはじまり。
「んぐぅっ!」
ーーードスン
可愛げもない色気もない呻き声がお腹の奥底から這い上がった。それを自分の声だと分かっていながらも全然知らない人のような声にも驚いた。おまけに身体に走った痛みとプラス大きな物音に情けない声が漏れる。
「…ぃったあい」
幸い頭は打ってないものの背中と肩が痛かった。顔を歪めて泣きそうになっていると笑いを堪えた顔でベッドの下を覗き込む男が一名。
「俺、ベッドから人が落ちる瞬間初めて見たわ」
「……初めて落ちたの」
九条さんに引っ張って上げてもらいながら涙目で彼を睨みつけた。その顔はまだクスクス笑って違う意味で涙目になっている。
「あーーー。一気に目、覚めた」
「わたしのセリフなんですけど」
「悪い悪い」
「全然悪いって思ってな……ちょっと!」
なんでよ!とわたしは九条さんの肩を押し返す。それもそのはずだ。九条さんは何を勘違いしているのかわたしを抱き込こもうとしているのだ。
「煩い」
「煩くさせるようなことをするのが悪いんでしょ」
「まだ夜中だ。寝ろ。それともそんな元気があるならヤる?」
九条さんはサラッと言った。まるで、ちょっとトイレに行ってくる、のような感覚で。
ヤルって……え。
目だけで上を見上げれば愉しそうに笑う男。身体を囲う腕がぎゅう、と強くなる。わたしが逃げないように脚を絡めて隙間もなく色んなところが密着している。
「…っ!ば、馬鹿なこと言わないで離しなさいよっ」
それに狼狽えるのはわたしだ。男性経験がゼロではない。恋人もいる。ご無沙汰ではあるけど、恋人以外の男性とそーゆーコトはしないし したくない。