嘘つきは恋人のはじまり。
九条、と名乗った男は“緒方”というひとりの名前をあげた。この男の会社もシュクレと取引のある会社らしい。
シュクレとは日本でも五本の指に入る大手老舗の菓子メーカーであり、現在わたしの担当するクライアントだ。
わたしはシュクレの常務兼役員であり、実質色んな権限をもつ山崎慎太郎からコンサルティングの依頼を受け、週三回ほどこのビルに通っている。
『うちにも来てくれないだろうか。あなたに依頼したい』
ニッコリ笑う顔が胡散臭さを助長した。嫌悪感はなかったものの、何か黒いようなものがみえる。
警戒心が強まる。
だが、それを察したのか、九条はふ、と表情を緩めると携帯を取り出した。
『信用できなければここで緒方さんに連絡でも取りますが』
いや、いいです!と遠慮したのは言うまでもない。そもそも、その連絡先が本当に緒方さんなのかも分からない。
確認は自分からすること、そして確認が取れ次第この名刺の連絡先に連絡するよう伝え、とりあえずその場を後にした。