嘘つきは恋人のはじまり。



 どうしてこうなってしまった……


ザーッと頭から降り注ぐシャワーを受けながら九条さんと交わした約束事を思い出して溜息をついた。


ボイスレコーダーで聞いたわたしの声は誰が聞いても酔っているものだった。5秒で切ったのはそれ以上、自分の醜態を受け入れる余裕がなかった。


ただでさえ、よく分からないことになっているのに、そのうえ自分の醜態まで受けつける容量がなかったのだ。そう、キャパオーバーだ。27年生きてきた中でこんなことをしでかしたのは初めてだ。


「……でも、あと9か月」


要は期限まで約束を最低限守りながら過ごせばいい、ということ。そして、九条さんの言葉に誠実に答えてサヨウナラすればいいだけのこと。


「大丈夫よ!仕事でそれどころじゃないし」


九条さんは忙しい人だ。いくら同じ職場とはいえ毎回会うわけではない。それにわたしだって忙しいのだ。


12月はクリスマス、10月にハローウィンもある。夏はお中元の季節で、今は新しい取り組みを考えているところ。


バレンタイン、ホワイトデーの結果はきっとあっちで聞くことになるけど、それを考え始めるのは少し寒くなってくる時期だろう。


あぁ。やることが山積みだ!
そう思えば9か月なんてあっという間だ。




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