嘘つきは恋人のはじまり。
「すみません、シャワーお借りました」
あまりにも呆然としていたわたしを見兼ねた九条さんが脱衣所に連れてきてくれたのは今より15分程前のこと。
『とりあえず、シャワー浴びれば』
真夜中の3時を過ぎた頃。アラサー男女が同じ家で過ごす。普通の人なら、その意味を履き違えないだろうし、起こりうることを予想できるだろう。
だけどこの時のわたしは放心状態で何が良くて何が悪いかを判断できなかった。
いつでもロバートに知らせることはできるんだ、と脅され、知らされた後のことを考えただけで頭が真っ白になって。
九条さんに言われるがままシャワーを浴びた。ようやく理解が追いついて、それでも落ち込んだ。だけど落ち込んでも仕方がないので契約書通り、最低限の約束を守りながら仕事に明け暮れようと決意した。
だけど、ここでハッとする。
言われるままシャワーを浴びていることに。
そのことにまたガックリと項垂れた。
脱衣所に置かれたバスタオルと着替えを借りて寝室に戻れば、九条さんが少し眉を下げて笑っていた。そのことにキョトンと首を傾げれば。
「服、やっぱでかいな」
Tシャツは膝より5センチほど上。ほぼワンピース状態。身長差を考えれば仕方ない。それに、服よりもズボンの方がぶかぶかで。
「あ、でも、大丈夫……です」
腰はゆるゆる。脚はダブダブ。辛うじてゴムのおかげで腰は大丈夫だけどズボンの裾は何回も折った。これでもか、と折り返してなんとか踝の下。