嘘つきは恋人のはじまり。
拒絶するように九条さんから距離を取るものの、腕が伸びてきて、身体が乗り出してきて、抱きこまれてしまった。ずるり、ずるり、とシーツの上から引き寄せられる。
「…ちょぉおっと!」
「眠い。良い抱き枕見つけた。ちょっと抱かせろ」
「言葉!その言葉に語弊が!」
「俺と玲だけわかってたらいいだろ?」
あぁああぁぁああああーーーーーーーーーー
心臓に悪い
心臓に悪いぃ
心臓に悪いぃい
今すぐ大声で叫んで逃げ出したかった。いくら好きじゃなくても、こんなにも密着されてドキドキしないわけがない。
九条さんはわたしを腕の中にすっぽりとおさめた。そして満足げに表情を緩めるとすぐさま目を閉じる。
心の動揺はすぐにおさまることはなかった。だけど、しばらくして呑気な寝息と寝顔を見ていると気が抜けて頭も働き始める。
……ロバートとは違う、オトコノヒト。
今、改めて見る。
閉じられた目はバランスよく配置され、通った鼻筋と凛々しい眉がより一層彼のオーラを引き立てている。
背はロバートと同じぐらいだけど、彼は九条さんより筋肉隆々だ。サーフィンしたりジムにいったりするからどちらかといえばガッチリした体型の人。
だけど、こんな風にわたしを抱きしめて寝ることはあまりない。付き合った当初こそ数回あったけど、腕がしんどいとかで。まあ、そうだろうなとは思ったし、それを寂しいとは思わなかった。あの時は。
でもどうしてだろう。
……なんか安心する、
わたしはせめても、と九条さんに背中を向けた。すると、九条さんの腕の圧が強くなる。一瞬起きているのかと動かせる範囲で首を動かしてみたけど、狸…ではなさそうだ。
……あぁ、寝そう
背中を覆う体温が、いつの間にか緊張を溶かし居心地の良いものになってしまっていた。
なんとかして目を開けようとしたものの、やはり争うことはできなくて。
……手、大きいな
暗い部屋でわずかな灯りの下で、九条さんの手がわたしの手をまるで壊物ののように優しく、そして包み込むように握ってくれていた。
それを見て目を閉じたわたしは、どうしてこうなっているのかも忘れて翌朝、目を覚すなり大騒ぎしたのだった。