嘘つきは恋人のはじまり。
ヒトトナリ



 「知らないうちにすごく楽しそうなことになってるじゃない」


未玖は笑う。他人事だと思ってる。いや、たしかに彼女にしてみれば他人事なんだけど、もう少し打開策とか考えて欲しい。


「全然楽しくない」


「はい、左手お願いします」


「あ、はい」


あの醜態を晒した夜から3週間ほど経った。4月に入りバタバタとしているうちに気がつけば時間だけが過ぎていた。今日は未玖とネイルサロンに来ている。彼女行きつけでペア割というものがあるそうだ。便乗させてもらった。


「でも、あれから会ってないんでしょ?」


未玖は右手をネイリストに差し出して左手をライトに潜らせた。燻んだ青とベージュピンクの組み合わせにラメを散りばめたデザインが可愛い。それを横目に見つつ、未玖の言葉に返事をした。


そうなのだ。週に1度は食事をして会話をするとかなんとか、そういう約束があった。あったのにもかかわらず、わたしと九条さんはすれ違っている。


「仕方ないじゃない。向こうは忙しい。わたしも忙しい。今日だって今月入ってやっと休みなんだから」


フリーで活動しているわたしにとって特に休みは決まっていない。すなわち、わたしが休む、といえばそうなんだけど今は休日返上で働いている。


「彼氏のためにね」

そう。G.Wの連休にロバートが日本にやってくるのだ。京都観光して日本の美味しいものを食べて新幹線に乗る。彼のやりたいことをピックアップした結果そうなった。旅のしおりまで作ってしまいそうなぐらい楽しみだ。





< 76 / 145 >

この作品をシェア

pagetop