嘘つきは恋人のはじまり。


これから夕食を食べに行く、と伝えれば気を利かせて髪をゆるく巻いてくれた。顔まわりを外ハネに、ゆるふわガーリー、なんだそう。


お会計を終えて未玖とふたり地下鉄の駅に向かって歩いていると不意に未玖が歩みを止めた。どうしたんだろう、と振り返ればいるはずのない人がいる。なんで。


「玲」


黒の高級車がハザードランプを点けて止まっていた。その運転席から出てきた男はわたしの名前を呼ぶと助手席のドアを開ける。


「玲、ご飯はまたね♡九条さん、玲ってすごく料理上手なんです。作ってもらってくださいね♡」


「え?!ちょっと、未玖!」


未玖は「おほほ♡」と笑いながら地下鉄の階段を降りていく。その背中に文句を言いたくなった。先に約束したのは未玖なのに!と。


「玲、乗って」


「なんで」


「いいから。ここ、迷惑だろ」


表参道の大きな交差点。この時間、周囲は沢山の人で賑わっている。ハイブランドショップが立ち並んでいたり、結婚式場がいくつもあるせいか、その帰りだと思われる引き出物を持った人々が歩いている。


そんな中、こんな素人が見てもわかる高級車が止まって、助手席のドアを開けて待っている男。


待たせている女はーーーーーわたし、か。


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