嘘つきは恋人のはじまり。


 「で、何作ってくれる?」

仕方なく車に乗り、シートベルトを締めていると隣からいけしゃあしゃあと出てきた言葉に唖然とした。


「何も作りません」


「じゃあ食って帰る?」


「なんで、そこ決定なんですか」


「なんでって約束だろ?それにこれから飯の時間だし」


九条さんはすごく不思議そうな顔で当然のように言った。人の予定を崩しておいて何をそんなに平然としているのかわからない。


「わたしは未玖と約束していたんです。あなたと約束はしていません」


「人が変わっただけだろう?飯食うのは同じ」


「あなたはそれでいいかもしれません。わたしは彼女と食べることを楽しみにしていたんです!ずっと前から予定を合わせてたの。もうすぐ未玖の誕生日だし、プレゼントも用意して準備してたのに」


来週未玖の誕生日だ。だから今日は特別だった。これからいくはずだったお店も未玖の希望で予約した。デザートプレートを出してもらうよう、店側にも伝えている。


 わたしの言葉の勢いを表すように車がゆっくりと速度を落とした。信号が青から黄色になり、次の交差点には間に合わない。


 九条さんはやっとことの大きさを把握したらしい。わたしの話に目を丸くして驚いたあと、頭を下げた。


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