嘘つきは恋人のはじまり。
「悪かった。そんな大切な日だとは思わなかった」
「友人と夕食を食べるって伝えましたよね?その前にどうしてこうなったんですか」
九条さんは仕事のつながりから未玖と知り合いわたしの友人だと知った。夕食を食べる友人が未玖だと知ったうえでその時間を代わってほしい、とお願いしたらしい。
サプライズ企画だから未玖は知る由もないだろう。だけど、多分顔を見て未玖の誕生日をお祝いするのは最後になる。そんな大切な日だったのに。
むすっとして窓の外を見つめていると携帯が着信を知らせた。相手は未玖だ。わたしはふて腐れたままそれを取った。
「……はい」
『あっはっは!もう、なに拗ねてんの』
未玖の要らぬお節介というかお世話でいろんなことが台無しになった。そんなこと言えないけど。
『あたしだって玲とご飯行きたかったよ?でもちゃんと向き合いなよ。九条さんだってずっと玲と予定合わせようとしていたんでしょ?たしかにお互い忙しい身だし、都合はつかなかったけど、玲だって合わそうとしてないじゃない。逃げる、なんてらしくない』
逃げている、と言われて思い止まった。これが『逃げ』になるのか、と問われればわたしは違うと思う。
けど、
「…未玖から見てそう見えるの?」
『うん、そうね。その人それぞれの考え方だから玲が違うと言えばそうかもしれない。けど、彼氏がいる玲に真正面からぶつかっていこうとしている九条さんにとって、玲のその行動はどうかなって』