嘘つきは恋人のはじまり。
運転席でハンドルを握る九条さんをチラリと横目で見た。彼はただまっすぐ前方を見ている。こちらの会話は聞こえてないだろうか。少々不安になりながらも親友の言葉に耳を傾けた。
『ちゃんと知ろうとしてる?九条さんの為人を。恋人がいるから、っていう理由で邪険にしているようにしか見えないわ。別に寝ろって言ってるわけじゃないの。(仮)でも彼氏なんでしょ?だったら、好きなものとか嫌いなものとかただの“九条梓”という人間を見てあげなきゃ。可哀想よ』
「そうなのかな」
『玲だってよく知りもしないくせに邪険に扱われたら嫌でしょ?期間があってそういう契約したならちゃんとしないと』
未玖に言われて思うところがないわけでない。邪険にしていると言われればそう捉えられてもおかしくない。都合の良い日程を伝える時も他にも候補はあった。けど、無意識に、合わせないようにしていたところはあったのかもしれない。
電話が切れたあと少しだけ考えた。九条さんはあれから一言も喋らない。横顔を見ればどこか疲れているようだし、目の下もうっすら隈がある。
「……なに、食べたいですか?」
忙しいのはお互い様だ。それでも彼の方がきっと責任は重いし、大変なのはわかる。比べることではないと思うけど。
「え?」
「…作ります。お腹空いてませんか?」
九条さんは驚いたように目を見開いた。そして少し考えたのち、ざっくりとしたリクエストが飛んでくる。
「白飯に合うもの」
「嫌いな食べ物はありますか?」
「特にないよ」
目的を失い、道なりに進んでいた車だった。だけど、九条さんにお願いして近くのスーパーに寄ってもらった。スーパーの中を歩く彼はとても目立っていた。籠を持ってもらい、ぽいぽいと必要な食材を籠に入れてレジに並んだ。