嘘つきは恋人のはじまり。
「九条さん、起きてください。九条さーーん」
仕方なく揺すった。ゆさゆさと。
はじめは小さく、だんだん大きく……のつもりがそこまでしなくてすんだ。
「……」
眩しそうに顔をしかめて目を細めた彼は無言でわたしを見つめると背中を向けた。まるで起きることを拒否するように。
「九条さん、もう12時前ですー」
「……」
「ほら、しゃきっと!運転できないですよー」
「……ない」
「え?」
「しない」
九条さんが鬱陶しそうにボソボソ言っている。朝起きたくない、と駄々をこねる子どもと同じだ。
「…電気、消して」
「はぁ?」
「まぶしい」
どうやら彼は起きる様子もなく、いや、起きる意思もなくこのまま寝るつもりらしい。こんな大きな子どもを起こす方がエネルギーを使うので仕方なくわたしも諦めることにした。
「おやすみなさい」
だけどこの判断が間違っていた。ソファーで寝ていたはずの九条さんが朝起きるとなぜかわたしのベッドにいた。
「離してくださ」
「やだ」
目覚めた瞬間から大騒ぎして九条さんに抱きこまれたのは数瞬のこと。ただでさえシングルベッドで狭いのに九条さんのせいでもっと狭い。くっつきたくなくてもくっついてしまう距離。それなのにわたしはまた抱き枕状態。
「抱き枕は喋らないだろ」
背後からがっしり抱きしめられて抜け出せなかった。仕事があるのに九条さんはなかなか離してくれず、やっと離してくれたと思ったら「いってらっしゃい」とか言い出して家から追い出すのにすごく疲れた。朝からクタクタの疲労困憊で未玖に愚痴ったのは言うまでもなかった。