嘘つきは恋人のはじまり。



てっきりどこかのカフェで、と思っていたが九条さんに連れられて入ったお店は隠れ家的なレストランだった。


銀座の奥まった場所にあるビルの最上階に店を構えているミシュランにも載るお店だ。予約は半年先まで埋まっているという三つ星レストランに案内され、わたしは足が竦んだ。


『会社で贔屓にしているんだ。よく接待で使う場所だから、そんなに恐縮しないでもらえるかな』


九条さんと落ち合ったあと、『お腹は空いているか?』と聞かれて素直に『この時間ですからね』なんて答えてしまった5分前の自分を殴りたくなった。


もうひとつ言えば、今夜は先約があった。未玖と食事に行く予定だ。だが、レストランに案内されて“先約がある”とは切り出せるほど図太くない。


わたしは早急に未玖に断りの連絡を入れて大人しく九条さんの後に続いた。


店内はそれほど畏まった空間ではなかったものの、カジュアル過ぎるわけでもない。客層は若くて30代ぐらいだろうか。彼らの服装や店内のインテリア、ざっと店内を見渡しただけで高単価の店だとわかった。






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