嘘つきは恋人のはじまり。
カポーン、と鹿威しの音色に、五月の夜空。月は綺麗なくっきりとした三日月が浮かび、私たちを照らしている。
「これは我慢比べだね」
「ふふふ、無理しなくていいよ」
初めこそ、気持ちいい、と言っていた温泉も5分もすればソワソワし始めた。ロバートの顔は真っ赤。白いせいで余計に赤く見える。
「こっち、座れば?」
石畳みに腰をかけて脚だけ浸けるように伝える。もう我慢できる範囲は超えてしまったらしく、彼はわたしの言う通り、ザバッと勢いよく立ち上がると深呼吸を繰り返しながら腰を下ろした。
「冷たくて気持ちいいね」
目を細めて夜空を見上げて微笑む彼は、後ろに手をついて呟く。きっと必要になるだろう、と思って持ってきたミネラルウォーターのペットボトルを差し出した。
「ありがとう」
「うん」
「レイもこっちに来て座りなよ」
ロバートは自分が座っている隣に少し視線をやると湯船に浸かっているわたしに手を伸ばした。わたしはその手を取ると立ち上がり、彼の隣りに腰を下ろす。
「気持ちいいね」
火照った身体に程よく馴染む風がわたしを撫でてゆく。彼の顔は赤さが薄れてきたのか、ほのかに色づいただけで。
「そうだね」
彼の手が腰を抱く。自然と顔を見合わせてそれに誘われるままこてん、と彼にもたれかかった。