恋の忘れ方、怖がりな君の愛し方。【番外編追加】
「どうしても言わないっていうんなら、今から隼斗に連絡してお前をクリニックに戻す」
「だ、駄目・・・!」
そう反射的に声をあげていた。そんな事になったら、クリニックを抜け出した意味が無くなってしまう。
(駄目、私はもう戻っちゃいけないのに)
「言います、言うから、だから砂川君には連絡しないで!」
そう言うと、羽瀬君はスマホをダッシュボードにコトンと置いた。
もう、観念するしかないと口を開く。
「天津玲二から、連絡があって・・・。私があの後。クリニックでお世話になっている事、何故か彼にばれていたんです。それで、そこから出ないと、私をかくまってくれている人に、何をするかわからないって言われて。だから…実家に帰るって嘘ついて、出てきたんです」
「なっ・・・」
羽瀬君が驚いたように息を呑んだのが分かった。私もそれを口にしながら、その恐ろしさに身震いしそうになる。
「脅しとかじゃないんです。天津は、目的の為には手段を選ばない人間なんです、本当に。昔からずっと・・・ずっと変っていないんです」
お姉ちゃんを手に入れる為に、まずは妹である私と関係を持った。お姉ちゃんを失ったら、その恨みを晴らす為に私に乱暴をした。今は、お姉ちゃんの元へ行く為に、私を道連れにしようとしている。
異常な程の、欲望への忠実さ。外面がいいものだから、味方も多い。
そんな彼の刃を、砂川君や楓さんに向ける訳にはいかないと思った。・・・それに、楓さんは女性だ。もし楓さんが自分のせいで、過去の自分のような目に遭う事があると思うと耐えられない。