恋の忘れ方、怖がりな君の愛し方。【番外編追加】
顔を真っ赤にして酔っ払っている部長の手が私の髪に伸びる。その瞬間、悲鳴に近いような声を上げかけた──上げかけたというのは、声を発するより先に頭が真っ白になり、一瞬思考回路が停止したからだ。
(あ…嫌…)
普段は優しくて頼りになるような、そんな信頼していた上司がたったお酒一つでこんなに豹変してしまうなんて夢にも思っていなかった。
「ね、だからもういい加減焦らすのやめてよ」
ガクガクと震えながら固まる私に部長はそう囁いて、やがてそのまま私の右手を強く掴む。
「あ…離…下さ…」
──離して下さい。
そう言いたいのに、頭が真っ白になって呂律が回らない。
言わなきゃ。
離して下さいってちゃんと言わなきゃ。自分を守る為に自分でちゃんと言わなくちゃ。
そう思うのに、体は全く言う事を聞いてくれない。動悸だけが自分を置いていくように速まっていき、景色がゆっくりと歪んで回り始めるのがわかった。
(もう、駄目かも)
そう、心の中で情けなく呟いた時。
「離してやって下さい」