恋の忘れ方、怖がりな君の愛し方。【番外編追加】

「…相澤を放せ」

「合意の上で沙和は俺の側にいるんだ」

「お前がそうさせたんだ!」

いつも落ち着いていて冷静な砂川君が、こんなに血相を変えて声を荒げている所を見るのは初めてだった。それは私のせいだと気づく。どうやったって自分が砂川君の事を苦しめてしまっている事実が苦しくて、胸の奥がズキンと痛んだ。

そして砂川君がこちらへ駆寄った時。

それから逃げるようにして、私の首に回された天津の右腕がまた大きな力で私を導いた。

導く先は───漁船の外。

「おい、やめろ!」

私達にたどりついた砂川君がそう言って力づくで私を天津から引きはがそうとするが、天津の腕は信じられないくらい強い力で私を離さなかった。

「ん…んん…っ」

それどころか私の首に回す腕はその力を増し、まるで首を絞められているかのように喉が痛くて息が出来なくなる。


嫌。苦しい。痛い。怖い…!


天津と心中をする覚悟でここに来たのに、いざこうして手にかけられてしまうと、今まで感じた事のないような恐怖心で反射的に生きたくて助かりたい欲求に駆られた。

こんなに揉み合っていては、砂川君だって安全ではないのだ。

きっと大丈夫だと内心で出来る筈もない深呼吸をしてから、天津の腕に深く爪を立てた。

天津が痛みに顔を歪め力が緩んだその一瞬をつき、口と喉を覆っていたその腕を今度は思いきり噛んだ。

これで、天津の腕の中から抜け出せると思った。だが、そんな考えは甘かったのだ。

逃げ出そうとした私の身体は更に強く締め付けるようにからめとられた。砂川君が天津を殴りつけようとするが、その度に天津がまるで人質をとるように私の首を締め付ける。

「ああぁああああ・・・・!」

そのままひきずり出されるようにして、私を道連れに天津は海に飛び込んだ。

「相澤!」
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