恋の忘れ方、怖がりな君の愛し方。【番外編追加】
砂川君の声だ。
声を発したいのに、喉が凍ってしまったかのように言葉を発する事が出来ず、あまりの疲労感で振り向く事も出来ない。
「頑張れるか?」
砂川君の言葉に、残りの体力をふりしぼるようにして僅かに頷く。
そんな私の身体を砂川君が抱きかかえるように包み込み、そのまま水をかいて私を堤防まで運んでくれた。
そして堤防までたどりつき、後はなんとかして上がりつくだけだったその時。
外灯に照らされた私と砂川君の周りの海面の色が、どこか朱殷に濁っている事に気がついた。
「え、砂川く…」
一瞬のうちに思考回路が停止して頭が真っ白になった時。
今まで支えるようにして私を包んでいてくれた砂川君の腕から、ガクッと力が抜けたのが分かった。
(嫌、そんな、そんな事って…)
「や…っかり、して…、」
しっかりして!そう声を掛けたいのに、まるで喉に凍りが詰まったように声が枯れて声が出ない。
早く砂川君を海から出さないといけないという事は分かっているのに、砂川君を押し上げる事が出来る力が残っていない。この身体にもっと力があれば。…そもそも、どうせ途中で逃げ出してしまう程に覚悟が出来ていなかったのに、天津に会いに行かなければ。
そんな後悔ばかりがおしよせてきた時だった。
「沙和!隼斗!」
「……っ」
耳に届いた羽瀬君の声に頭をあげた。
(羽瀬君、どうしてここが・・・)
声が聞こえてから程なくして駆けつけてくれた羽瀬君の姿が、自分の驚きやら歓喜やらの感情で霞む。
「羽瀬君お願い、砂川君が、砂川君が…っ」
羽瀬君が、私の背後でぐったりと気を失っている砂川君を見て目を見張ったのが分かった。
「待ってろ、すぐに上げる」
「・・・お願い」
羽瀬君がバシャンっと水に入り、さっきまで私が必死になっていたのがおかしいくらいに素早く私と砂川君を堤防にあげてくれた。