恋の忘れ方、怖がりな君の愛し方。【番外編追加】
羽瀬君が座りこんでしまった私を起こそうと差一度差し伸べてくれた手を引き、私に視線を合わせるようにして腰をかがめた。
「刺し所と深さが少しでも悪かったら危なかった。意識が戻ってないからまだ安心って訳じゃないけどな」
「……。」
「まぁ、俺は隼斗の生命力を信じてるよ」
まだ安心出来るわけじゃない。その言葉に顔を強ばらせた私に、羽瀬君がそう付け加える。
「隼斗が死んだら、沙和はどうする?」
「え…?」
羽瀬君からのそんな唐突な質問に酷く戸惑いながらも、質問通り素直に砂川君が助からなかった時の事を想像する。
すると、感情が浮かぶよりも先に、気がついたら両頬に涙がこぼれていた。
「あ…」
自分でも驚いて頬に流れた涙を両手で拭う私を見て、羽瀬君がクスッと笑う。
「命かけてまで守りたいってくらいの大事な奴が泣くって分かってて、隼斗がどっか行ける訳なんかないんだから安心しろよ」
命をかけてまで。…そうだ、砂川君は命をかけて私の事を守ってくれたのだ。天津に囚われたまま海に飛び込んだのに、あの時水中で天津の腕中から逃げ出す事が出来たのは、砂川君が天津から私を逃がしてくれたからで。
…腹部を刺されたのは、きっと、その時に。
本当に馬鹿な事をした。
身の回りの大切な人を傷つけてしまうくらいなら死んでしまった方がマシだと、殺される事を覚悟して天津に会いにいったというのに。
結局覚悟が出来ていたふりだったのだ。結局こうして私はまた天津から逃げて、あの時と同じように、私のせいで砂川君が酷く傷つけられてしまった。