恋の忘れ方、怖がりな君の愛し方。【番外編追加】
「砂川君…っ」
病室のドアをガラッと開けると、私がここにくるまで読んでいたのであろう文庫本を閉じて、砂川君が微笑んで迎えたくれた。
「こんばんは。見て見て、すごく綺麗でしょ?」
そう言って、病院の近くにあるお花屋さんで買ってきたお花を砂川君に差し出して見せる。
可愛らしいカモミールの花束。カモミールの主流は白いものなのだろうけど、お見舞いの花だと白は避けた方がいいかもしれないと、薄いピンク色のものを選んだ。
「凄く綺麗…というか可愛いな」
そう言って砂川君が顔をほころばせる。
「ありがとう。でもいつも悪いな、仕事帰りで相澤も疲れてるだろうし、毎日は大変だろ?」
「ううん、私が来たくてきてるの、全然大変じゃないよ」
確かに、砂川君の意識が戻ってからこうして毎日仕事帰りに病院にお見舞いに来ている。
天津玲二は、今は心身喪失の患者として精神科の病院に入院しており、退院後も保護観察所による精神保健観察を受けるらしい。砂川君を傷つけた天津を罪に問えないのは悔しいし、納得する事が出来ないというのが正直な気持ちだ。
それでも、長い間ずっと怯えて恐れていた相手にもう怯えなくてよくなった事実は自分にとっては酷く大きな開放感をもたらすものだった。
毎日、砂川君に会いたい。
自分の純粋な気持ちに素直に行動が出来るのも、そのおかげだ。
「でも…秋人からは何も言われないのか?」
「え、羽瀬君?」
私が毎日砂川君に会いにくる事を羽瀬君は咎める事なんてない。
どうしてそんな事を聞くんだろうと不思議に思いながら首を傾げる。
「何も言われないよ、どうして?」
「いや…」
砂川君がその先を言いにくそうに口ごもりながら目を伏せる。