恋の忘れ方、怖がりな君の愛し方。【番外編追加】
それから程なくして、俺はその部活の先輩であろう男と一緒にいる相澤を何度か目にした。
相澤の信頼をよせきったような瞳とほんの僅かに紅潮した頬の色を見て、俺の予想は的中したのだと確信した。同時に、その事実に内心で肩を落としている自分に気がつき戸惑う。
相澤がその先輩と交際をしている事を後でまた友人づてに耳にした時、俺の心は確かにショックを覚えた。
友人達におだてられ、無意識の内に相澤が心を解いている異性は自分だけなのだと傲っていたのだろうか。
こんな事になってからしか気がつく事の出来なかった淡い想いは、こんな事になって初めて自分の心に苦みを刺す。
だが、そんな自分の気持ちを自覚した所で俺と相澤の関係ようが変る筈も無く。今まで通りに友人として当たり障りないような会話を重ねながら、日々は過ぎた。
そして。
お互い高校三年に進学した春のある日。
いつになく沈んだ様子で俺の隣の席に腰を降ろした相澤の顔を見た時、俺は目を見張った。
まるで散々泣きはらした事を証明するように、いつも綺麗に澄んでいた相澤の両目がわかりやすく赤く腫れていたのだ。
「相澤、何かあったのか?」
そう聞かずにはいられなかった俺の問いかけに、相澤はその内実を語る事は無かった。ただその弱りきった表情で何でもないと言って力無く微笑んでみせるだけだ。
その次の日も、また次の日も相澤の様子は相変わらずで。
──何でもないよ。
相澤のそんな言葉が偽りである事は確かで。一体何が相澤をそうさせてしまっているのか気になって仕方が無かったが、何でもないと言われてしまった以上深堀する事もできない。
かといって、そんな状態の相澤を放っておく事は出来なかった。