恋の忘れ方、怖がりな君の愛し方。【番外編追加】
涼やかで鋭い、それでいてどこか懐かしいような声が耳にすっと響いた。
(誰…?)
その声の持ち主が、さっきまで信じられないくらい強い力で私の腕を掴んでいた部長の手を力ずくであっさりと引き剥がす。
「なっ、なんだね君は」
「彼女の主治医です。これ以上彼女に乱暴な真似をするのはやめていただけますか?」
「主治医だと?」
部長の目がその不快感を露わにするように少し細くなる。
部長に腕を解放された私は強い安堵感に胸を撫で下ろし、同時に安心したのか一気に身体中の力がその芯を失ったようにガクっと抜けた。
(私今、どこの病院にもかかってないから、主治医なんていないはずなんだけど…)
ぐらりと歪む景色の中で、私を助けてくれた人の顔を上手く認識する事も出来ないまま、そう心の中で呟いたのを最後に、私はその場で意識を手放した。