虹色アゲハ
我慢しても、次から次へと涙が落ちる揚羽は…

「そんな低レベルな手口で勝負持ちかけてくるなんて、とんだお笑い種ね。
私を落としたいなら、もっと頭使うのね」
そう吐き捨てると、逃げるように久保井の部屋を後にした。


直後、抑えてたものが一気に弾けて…
いっそう涙に襲われる。



抱き締められた時の、大好きだった甘い匂いや。
唇に残る、愛しい感触に…

あの頃の感情が甦って、苦しくてたまらなかったのだ。


こうも簡単に、あんな男に心が動かされる自分が許せなくて。
なのに唇は、もっと仁希(・・)を求めてて。

揚羽は何度も、泣きながら何度も…
唇をゴシゴシと擦って、必死にその感覚を消し去ろうとした。


なのに消えなくて。

「なんでよ…
ううっ…なんでよっ!」

そんな揚羽の声を…

盗聴器越しに聴いていた倫太郎も、胸を幾度となく潰されて。
遣り切れない思いに苛まれていた。



それから盗聴器が切られて、しばらくすると…

倫太郎は、タクシー移動らしき揚羽の動向が、ある場所に近づいている事に気付く。
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