虹色アゲハ
どういうつもり?と、揚羽は思考を巡らせる。

こんな格好のエサなのに、騙す気ないの?
食事に繋げたのは、弁償を避けるために気遣っただけ?


「…どうかしましたか?」

「いえ、芸能人みたいな素敵な名前だと思って」

「あなたも素敵ですよ。
石野聡子(いしのさとこ)さん」

ターゲットの岩瀬鷹巨は、揚羽の偽名を口にして爽やかに笑った。


目立たないように、いたって普通の名前だけどね。
しかもその王子様みたいな笑顔、胡散くさ…

恥じらう素振りを見せながら、内心毒づく。


ちなみに偽名は、いくつか用意していて。
ターゲットによって使い分けては、定期的に一新していた。

職業も同じくで、手渡した名刺では保険外交員を称していた。


「では、食事の日程が決まったら連絡下さい。
あとこれ、クリーニング代です。
足りなかったら言って下さい」

「いえ、もらっちゃうと遠慮して好きなお店を選べなくなっちゃうんで、収めて下さい。
そのかわり、なんでもご馳走してもらいますよ?」

「もちろんですっ。
ほんとにすみません…」

「あと、謝罪はここまでで。
食事は楽しく付き合って下さい」

「はいっ…
ありがとうございます」
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