虹色アゲハ
この男、私に微塵も気付いてない…

名刺とともに挨拶を返しながら、胸が容赦なく切り裂かれる。


確かに、あの頃とはだいぶ雰囲気も違うし、化粧も派手に施してる。
でも声は変わらないし…

あんなに何年も過ごして、あそこまで私を追い込んで…
なのに気付きもしないなんて!


復讐するなら、気付かれていない方が都合いいに決まってた。
だけど揚羽は、ショックで深追いせずにはいられなかった。

会話が盛り上がってくると、早速。


「久保井さんも、女の子たくさん泣かせてきたんじゃないですかっ?」

「いえそんなっ…
僕なんか田中専務の足下にも及びませんよ」

「おいおい、まいったなぁ」

「モテる男は罪ですね。
2人とも、いったいどんな悪さしてきたんですかぁ?」
危険な男に惹かれる素振りでそう訊くと。

田中に続いて、待ち構えていた久保井の答えが明かされる。


「僕はよく、待ち合わせすっぽかしたりとか?」

よく…
その言葉から、同じような手口で何人も騙してきた事がうかがえた。
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