虹色アゲハ
「ええ〜、すっぽかされた女の子たち可哀想。
騙されてるとも知らずに…
冬だったら凍てつく寒さの中で、何日も何日も待ってたかもしれないのに」

会話に出てもない、騙すという言葉で挑発しながらも…
口にした、不安で心細くて辛かった日々が脳裏をよぎる。

すると久保井はきょとんと固まって…
「そんな馬鹿な子いるっ?」と吹き出した。


許せない。

あの時の自分が笑い者されて、周りが盛り上がる中…
揚羽の胸は激しく抉られる。



本当は、心のどこかで信じていたのだ。

いつか再会した時、誤解だと事情が明かされるんじゃないかとか…
やっぱり詐欺でも、今は懺悔の念に苦しんでるんじゃないかとか…

そんな、潜んでた最後の希望が無残にも打ち砕かれる。


しかも久保井の名は…
義父に付けられた通称だという、あの頃の名前と同じで。
本名にしろ詐欺名にしろ、あまりに無防備で舐めきってると、新たな怒りが込み上げる。


どうりで私に気付かないワケだ…
この男はそれほど、人を軽んじて罪を軽んじて、大勢騙してきたんだろう。

揚羽は悔しくて悔しくて、泣き崩れそうなほど悔しくて。
狂いそうなほど憎らしくて…
それらを必死にお酒で誤魔化した。

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