虹色アゲハ
ふいに。
行き場のない激情が、ぶわっと涙になって溢れ出す。

久保井の事で酷くダメージを受けてた心に、倫太郎から拒絶されたダメージも重なって…
それをアルコールが助長していた。


その時。

「…あれ、聡子さん?」

その呼び名と呼び声で…
涙と酔いが一気に引いて、まずいと焦る。

揚羽は夜の仕事といわんばかりのドレス姿で、聡子とは正反対の派手なメイクをしていたからだ。

どうしようと、頭を大急ぎで回転させながら…
ゆっくりと声の主に視線を向けた。


「鷹巨さん…
どうして、ここに?」

「僕は接待が長引いて、今お見送りしたとこです。
聡子さんは…
大丈夫ですか?」
泣いていたのを目にしてか、心配そうに問いかける。


「…はい。
実は夜の仕事の友達に頼まれて、今日だけ手伝ってたんですが…
駄目ですね、私。
せっかくこんなに綺麗にしてもらったのに、何の役にも立てなくて…」
ぼろっと涙を再び零した。

すると鷹巨は、揚羽の隣に腰を下ろして…
おもむろにそっと抱きしめた。
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