虹色アゲハ
さすがにそこはガードが固いわね…

「意外と遠慮するタイプなんですね」

「あれっ、俺どんなイメージ?」
くしゃっと八重歯を覗かせて。

それが揚羽の胸を締め付ける。

「っ、そうですね…
自由奔放な猫みたいな?」

「それいいねっ。
でもあんまそうすると、刺されたりするからな〜」
そう言って久保井は下腹部を指差した。

へぇ、刺されたんだ?
まぁあんたの場合、当然の報いでしょ。
いっそ死ねばよかったのに。

僅かにしてしまった心配を掻き消すように、揚羽は必死に毒づいた。


「そんな俺の話より、揚羽ちゃんの事聞かせてよ」

「例えば、何を」

「例えば、それって源氏名?」

「本名ですよ。
私、名前が2つあるのって苦手で」


本当の本名の私は、もういない。
あんたのせいで、この世から死んだも同然だからね…

そう、蝶は死と再生の象徴(・・・・・・・)らしく。
揚羽にとってはその名前こそが、もはや本名なのだった。


そうして、大した情報も得れないまま…
久保井は約束通り、一杯飲みあげて帰ってしまった。



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