虹色アゲハ
「うんなんか、遣り切れなくてさ…
唯一欲しいものが、絶対手に入らないだけじゃなく。
他のヤツに奪われてるって確信してさっ」

ふぅん…
差し当たり、絶好のターゲットがライバルに横取りされたってとこかしら?

ざまーみろね。


「それは残念ですね。
でも久保井さんならきっと、それを上回るものが手に入りますよ」

そう、それを上回る苦痛を与えてあげるわ。


「だったらいいけど…
揚羽ちゃんには、愛してるヤツがいる?」

「はい?」

なにそれ、今のまさか恋愛話っ?
だとしたら、あんたに愛を語って欲しくないんだけど…

久保井は揚羽をじっと見つめ。
揚羽は例のごとく、それから逃れた。


「いいえ、私は愛なんて信じてないので」

「…そっか。
うん、それがいいよ」

そう言うと久保井は、通りかかったタクシーを止めて…
「じゃあね揚羽ちゃん」と去って行った。


なにあの酔っ払い…
こっちはあんたのせいで、愛を信じられなくなったってのに。

腹立たしい気持ちでそのタクシー見送ると…
酒臭いサラリーマンが通りすぎて、ふと思う。

久保井からはアルコール臭が全くしなかったと。

どんだけ弱いの?
揚羽はそう馬鹿にして、自分もタクシーに乗り込んだ。



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