つらい日々を支えてくれたのは課長でした【優秀作品】
プロローグ
「ふぅぅっ
 無事、クランクアップして良かったですね」

私は撮影現場に同行した真島(ましま)課長に話しかける。

「ああ。
 これで後は編集と公開を待つばかりだな」

ふっと笑みを見せた課長はぽんっと私の頭に手を置く。

三沢(みさわ)も頑張ったな。
 クランクアップしても広報の仕事はまだまだ
 続くから、最後まで気を抜くなよ」

課長は、私の頭をくしゃっと撫でると、そのまま手を下ろして私の前を歩いていく。

 私たちは、楽器の総合メーカー(株)エムの広報部で働いている。今日は音楽をテーマにした人気マンガの映画化のクランクアップに立ち合いに来た。

 この映画は、うちの会社がスポンサーになり、全面バックアップで製作されている。当然、劇中で使われる楽器は全てうちのもの。だから、映画の随所で、うちのロゴが入った楽器が映り込むことになっている。

 2年前から始動したこのプロジェクト。
課長は、まだ26歳だった私に突然担当を命じた。

こんな大きな仕事、私には絶対に無理!と尻込む私を叱咤激励してここまで支えてくれたのは課長だった。

 課長がいなければ、この仕事はとても手には負えなかったし、この仕事に没頭しなければ、2年前の私はとても立ち直れなかっただろう。
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