策士な御曹司は真摯に愛を乞う
それには夏芽さんも、グッと言葉に詰まった。
湊さんはその反応を見届けて、悠然と秘書の顔に戻る。


「それでは、これで。また明日伺います」


恭しく頭を下げ、執務室から出ていく彼を、今度は夏芽さんも止めなかった。
ドアが閉まると、執務室には私と彼二人きりだ。
肌に纏わりつく空気が、なにやら酷く重苦しい。
夏芽さんが突っ立ったままでいるから、私もなんとなく座ることができず、無意味に立ち尽くしていた。


気まずい沈黙を破ったのは、彼の深い溜め息だった。
私は、弾かれたように顔を上げる。


「あの、夏芽さ……」


思い切って呼びかけ、湊さんの言葉に縋って質問を試みようとした。
なのに。


「仕事、始めよう」


夏芽さんは、まるで仕事に逃げるように、自分の執務机に向かう。


「え……」

「業務時間中だ」


湊さんの忠言も、私の質問も受け付けるつもりはないのか、鉄壁なほど頑なにシャットアウトする。
けれど、そう言われてしまうと、食い下がるわけにもいかない。


「……はい」


大人しく返事をして、私は半分脱力気味に、ストンと椅子に腰を下ろした。
昨日以上に仕事に没頭する彼の横顔を、チラチラと気にしてばかりいた。
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