策士な御曹司は真摯に愛を乞う
さすが、世界的大企業グループ、鏑木コンツェルン一族の御曹司。
やっぱりすごい人なんだ、と、怖気づく。


夏芽さんは、私の後ろで静かにドアを閉め、そこに背を預けて腕組みをする。


「……で?」


上目遣いの視線にドキッとしながら、私は書斎の中ほどから彼と向かい合った。
一度ゴクッと唾を飲んでから、唇を開く。


「夏芽さん……私のこと、好きだったって言ってくれましたよね?」


思い切って質問すると、その意図を探っているのか、彼がわずかに眉根を寄せた。


「……ああ。嘘はついていない」

「それを、昨日より前に、私に言ってくれましたか?」


今度は私が彼の反応を窺って、目線を定める。
夏芽さんは、ピクリと眉尻を上げた。


顎を撫で、どう答えるか思案するような顔をした後、


「言ったよ。昨日のは二度目の『告白』だ」


どこか自嘲気味に呟く。
私の胸が、きゅんと疼いた。


気持ちを伝えてもらったことを忘れてしまうなんて、私はどれほど失礼なことをしてるんだろう……。
自己嫌悪と罪悪感が錯綜して、胸が締めつけられるように苦しい。


私は身体の脇に垂らした手をギュッと握って、自分を鼓舞した。
その質問の先こそが、本当に大事なことなんだから――。
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