策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「私は……なにも返事をしなかったんでしょうか?」


もう一つ重ねた質問に、夏芽さんがわかりやすくギクッとした気配を漂わせる。


「……え?」


警戒するような目を向けられる意味が、わからない。
私は焦れた気分で、一歩踏み出した。


「だって、返事……告白されたなら、ちゃんと意思表示しますよね。私は、夏芽さんになんて……」

「今の君は、俺にどう応えてくれる?」

「っ、え?」


涼やかな一言で遮られ、虚を衝かれて口ごもった。


「俺が最初に好きだと言った時と、今。君の俺への心は、多分それほど大差はない。……答えて」


力のこもった黒い瞳に晒され、ドキンドキンと鼓動が高鳴り始める。


「わ、私」


喉に声を引っかからせながら、自分の中に答えを探した。


「私だけじゃなく、他の秘書たちも同じです。遠くから眺めて、その……憧れ、のようなものはありました」


居心地悪く、視線を彷徨わせながら、言葉を選ぶ。
夏芽さんは私をジッと見据えたまま、軽く勢いをつけてドアから離れた。
こちらに向かって、ゆっくり歩を進めてくる。


「でも、それだけです。夏芽さんは、私にとって雲の上の人。絶対に手が届くわけなくて……」

「そう。あの時も君はそう言った」

「っ、え?」
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